2022/08/25
高層ビルに屋上緑化を設計する際のポイントや考慮すべき点
屋上・壁面緑化
パークコート赤坂ビル:屋上緑化システム「スクエアターフLight」
2011年に改正された都市再生特別措置法、また全国で都市再生緊急整備地域が指定されたことにより、都市部では高層ビルが次々と建つようになりました。合わせて再開発では緑地の確保も重要となり、質の高い緑地をいかに配置するかが大きな課題となっています。今回は、緑地面積の確保などにより検討される高層部の屋上緑化を例に、設計の際のポイントや考慮すべき点をあげてみます。
1.耐風圧力の計算は?
高層ビルの屋上緑化は、耐風圧の検討が必須となります。しかし多くの屋上緑化では、耐風圧に対し根拠なく施工されているのが実情です。対象となる基本法令は 改正建築基準法施行令第82条の5となり、『屋根ふき材、外装材及び屋外に面する帳壁については、国土交通大臣が 定める基準に従った構造計算によって風圧に対して構造耐力上安全である ことを確かめなければならない。』と記載されています。また、 平成12年建設省告示第1454号により耐風速計算が規定され、緑化システムの耐負圧力を算出し、それに見合った固定方法を検討していきます。
2.耐負圧力がクリアすれば床面に固定しなくていい?
屋上緑化システムの固定の様子
耐負圧力が計算されクリアしたとしても、20年後、50年後の屋上緑化システムの固定が担保された訳ではありません。超高層ビルなどの場合は、屋上緑化メーカーによる固定材料の加速度試験、引き抜き強度試験などの再現試験を行い、その試験結果に安全率を掛けることが重要です。屋上緑化システムをただ床面に接着しただけでは緑化システムの飛散に対する安全の担保は取れていないと考えて良いでしょう。
3.ホバリングスペースへの緑化
パークコート赤坂:ホバリングスペースの拡大写真
超高層ビルの場合、ホバリングスペースが多く設置されています。共同カイテックではホバリングスペースへの緑化を依頼されることが多くあります。屋上部は設備との兼ね合いで緑化を設置するスペースがほとんどなく、(仕方なく?)ホバリングスペースに緑化を検討することが多くなります。ホバリングスペースとは、緊急救助用スペースであり、ヘリコプターの離着陸場とは違い、上部からロープ等で救助するスペースとなります。
よって、ヘリコプターが接近したときのダウンウォッシュ(ヘリコプターのローターが吹き下ろす下方への風)を考慮する必要があり、ここでも屋上緑化システムの耐負圧力計算が重要となります。また、救助する際の床面が植栽なので、滑らないこと、土が舞い上がらないこと、つまずかないことなども大切です。更に植栽は常緑であることも必須となり、芝生類は不可となります。つまり、『植栽の上を安全に歩くことのできる常緑』を選定する必要があります。また、屋上緑化となるのでホバリングスペースへの潅水も検討する必要があり、潅水ホースの敷設も安全に行わないとなりません。救助するときに土が舞い上がり、潅水ホースも舞い上がるととても危険です。このようにホバリングスペースでの緑化は屋上緑化では高度な技術が求められます。植栽を枯らさず、かつ安全に設置することがとても重要です。
4.屋上でも室内緑化に近い環境がある
天空干渉があるタイプの屋上緑化例
近年の超高層ビルの屋上は、ガラスなどの高い帳壁が廻っていたり、天井は鉄骨の梁が縦横に設置されるケースが多くあります。また、屋上面の上には設備設置用のグレーチングやゴンドラが設置されている場合もあり、屋上緑化の上部は必ずしも空が見えるわけではありません。注意することは、選定された植物への適正な照度、均整に行き渡る降水、適度な風も必須となります。屋上に上がると、地上より寒いのではなく、かえって風もなく、蒸し暑く、薄暗い室内環境に似た屋上部もあります。庇が付いたテラスなども植物の選定、生育には注意が必要で、照度が足りないために潅水した水が植物の蒸発散生理作用のバランスを崩すことも多く見られます。
まとめ
新宿住友ビル:200mの屋上緑化
このように高層ビルでの屋上緑化は風への対策と、植栽の選定がとても重要となります。近年の想像を超える暴風や天候にも耐えうる長期的視野を持った屋上緑化システムの選定、安全設計が求められます。また、地球温暖化対策推進法の改正により、今後は建築物のCO2排出量のデジタル化、開示なども予想されています。合わせて屋上緑化システムも植物を含めたCO2削減量なども明確で堅牢な緑化システムを検討した方が良いでしょう。